私の生い立ちと研究の発端
1943年9月頃 母と私。
1943年3月、私は東京都東銀座に生まれた。父は現職の外交官のまま、秘匿の命令でインドやビルマの国家独立運動に加担し、以後長期にわたり在外生活を余儀なくされた。私は父不在の東京で生まれ、いわば母子家庭で育った。母はアメリカ進駐軍の公式通訳、美容師として自立し、父は復員後、私立大学の法律と英語の担当教員として一生を終えた。
私は変則的な家庭に育つ運命を負った子どもには、同情を禁じ得ない。また、一見恵まれた環境の家庭にあっても、内実は種々問題を抱えていることが多い。
私の研究の根幹にある願いは、人の幸せ、子どもの幸せ、家庭の平和、社会の安寧の実現である。家族と家庭を大切に思うことが、子どもの健全な成長を保障することにつながる。
人はいかに生きるべきか。このテーゼに応えうる哲学を模索しつつ、種々の思念を作品に表出できないものか。人が運命的に味わう様々な苦痛を、作品に表出できないものか。負の要素に満ちた場から、肯定的な意想外の未来を望見する方法はないものか。
人はそれぞれの思いで、平面や立体の造形や、文字による論や詩を自由に展開すればよいのだと思う。それを私はいつも待っている。
原始以来、人間個々に内在する闘争心・利己心・排斥心を昇華し、いかに美的なものに結晶させていくか。造形芸術(美術)研究はそれ自体独立した価値をもつものであり、人の自己表現の所産は最高に価値あるものと考えている。自他を理解し、高め、物心にわたる高度な環境の実現への鍵を握る枢要な領域である。
これまでの大学院修論担当テーマは、概ね下記6項目に分けられる。
作家作品研究
「木下紫水―自由画教育・実践の今日的意義」
「三岸好太郎研究-線状様式とその展開」
鑑賞教育研究
「自分つくりとしての鑑賞の在り方」(1999)
「鑑賞教育に関する比較研究-国際理解の観点から」
博物館・美術館研究
「美術館における教育普及活動の可能性」(1998)
美術教育研究
「中学校美術教育における絵画指導のあり方-V.ローウエンフェルドのいう触覚型生徒の指導をとおして」
「中学校美術教育における絵画指導のあり方-多様化するマスメデイアの影響を受けた生徒たちへ」
「Fostering Children's Creativity and Critical Thinking in Middle School」(2001)
美術教科書研究
「『無教科書時代』における小学校図画教科書に関する一考察」
「日本.台湾の中学美術教科書における比較研究」美術館研究
美術教育史研究
「[国民学校期の図画工作教育」(1996)